排卵障害

全身状態の改善

  • 肥満・やせがある場合
    食事指導(場合により漢方薬を併用します)
  • 糖尿病を合併する場合
    妊娠前の血糖調整(専門の先生を紹介いたします)
  • 甲状腺機能異常・副腎機能異常
    内科的治療を優先あるいは並行。
  • ひえ・便秘・全身倦怠感
    場合により漢方薬を併用


※闇雲な排卵誘発は危険な場合があります。回り道のように思われる方も多いでしょうが、“まずは体の調子を整えてから”が原則です。じつはこの過程で自然に排卵し妊娠にいたる方も少なくありません。

排卵誘発

排卵障害の原因には、視床下部性・脳下垂体性・卵巣性・多嚢胞性卵巣症候群などがあります。原因により治療法は異なります。

 

視床下部性排卵障害

○ 内服薬(クロミッド・セキソビットなど)による排卵誘発


月経の3~5日目から5日間内服していただきます。卵胞の発育を観察するため1~2回来院していただく必要があります。卵胞が発育したら、卵子を排出させるための注射(hCG)をします。その後、黄体機能を改善させるために1~2回注射(hCG)します。場合により黄体ホルモン剤を内服していただきます。卵子が排出されているか否かの確認と子宮内膜の性状を確認するため高温層に一度来院していただきます。


  • 利点 
    簡便・安価 注射薬に比べ副作用が少ない。
  • 欠点
    子宮内膜を劣化させ着床しにくくする。子宮頚管粘液を劣化させ精子が子宮頚管を通過しにくくなる。卵胞が育っても卵子が排出されない(非破裂黄体化)を起こしやすい。
    ※内服薬による排卵誘発は、妊娠成立には不利な欠点もあります。頸管粘液や子宮内膜所見が劣化する場合、6周期施行しても妊娠に至らない場合は注射による排卵誘発が妥当です。頸管粘液や子宮内膜所見が劣化する場合には卵胞ホルモン剤の投与が有効する考えもありますが、効果を疑問視する意見もあります。

○ 注射薬(hMG製剤)による方法


卵胞刺激ホルモン・黄体化ホルモンを性周期の第3~7日目から成熟卵胞が発育するまで毎日注射します。その間に適宜経膣超音波断層法で卵胞の発育を観察させていただきます。卵胞が発育した後は、内服薬による排卵誘発の場合と同じです。自然の周期では1個か2個の卵胞が選択されて発育します。しかし、注射による排卵誘発では卵胞選択の機序がうまく働かず複数の卵胞が発育してしまいます。発育する卵胞数が多すぎると多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群などの危険性が高くなります。注射の開始日・注射薬の量や種類(卵胞刺激ホルモン・黄体化ホルモンの比率)を調整し、できるだけ発育する成熟卵胞数を3個程度までに制限いたします。どの様に工夫しても発育する卵胞数が制限できない場合もあります。その場合は、多数発育した卵胞から卵子を取り出し体外受精をし、全受精卵を凍結保存しホルモン補充周期に胚を移植することで卵巣過剰刺激症候群の発症を避けることが出来ます。

※診察は毎日必要と言うわけではありません。2~3日に1度の割合で診察させていただきます。診察の無い場合は注射のみとなりますのでほとんど待ち時間がありません。遠方からお越しの方は、注射を近くの先生をお願いすることも出来ます。また、注射のみで来院の方でも何か症状があれば必ず申し出てください。

  • 利点
    内服薬のような子宮内膜や頸管粘液の劣化作用が少なく、妊娠率が高い。
    (卵胞数が多すぎると子宮内膜の劣化を招くと言う考えもあります。
  • 欠点
    多胎妊娠率が高い。卵巣過剰刺激症候群の発症
    卵巣過剰刺激症候群: 発育卵胞数が多すぎる時に発症します。卵巣腫大・腹水の貯留による腹痛・腹部膨満感からはじまり、重症化すれば胸水の貯留による咳や呼吸困難が出現します。血液から水が失われるため血液濃縮が進行します。血液濃縮の進行により、血管内で血液が凝固し多臓器不全などの危険な状態になる場合もあります。予防と早期の治療が必要となります。
    予防としては発育卵胞数を制限することと多数の卵胞が発育する可能性が高い時は治療を中断することがあげられます。少ない卵胞数でも卵巣過剰刺激症候群が予期せず発症する場合もあり100%の予防が可能であるわけではありません。

脳下垂体性排卵障害
原則として注射薬による排卵誘発法により治療いたします。(前項を参照してください)
脳下垂体性排卵障害の場合は、発育卵胞数が少ない場合でも卵巣過剰刺激症候を起こしやすい印象があります。

卵巣性排卵障害
卵巣そのものの機能が劣化している場合であり、卵巣を支配する脳下垂体は機能亢進の状態にあります。女性ホルモン剤やGnRHa製剤(スプレキュア・ナサニールなど)により卵胞刺激ホルモン・黄体化ホルモンの過剰分泌を抑制し、卵巣が卵胞刺激ホルモン・黄体化ホルモンに対して正常に反応するようになることを期待します。しかし、排卵誘発の成功率は高くはありません。
第3者から卵子の提供を受けることが唯一の治療法である患者さんの方が多いように思いますが、国内ではまだ認可されておりません。

多嚢胞性卵巣症候群
視床下部性排卵障害と同様、内服薬による排卵誘発をまず試み卵胞が発育しない場合や妊娠に至らない場合は、注射薬による排卵誘発にステップアップします。多嚢胞性卵巣症候群の患者さんは、注射薬による排卵誘発で卵巣過剰刺激症候群を起こしやすく注意が必要となります。
注射薬により卵胞発育が不十分な場合や発育卵胞数が制限できない場合には、腹腔鏡下手術が有効です。腹腔鏡下に卵巣表面に散在する小嚢胞をレーザーでつぶしてやります。術後に自然排卵する率も高く、術後に排卵誘発剤の使用が必要となる患者さんの場合でも卵巣過剰刺激症候群の発症率を低下させることが出来ます。

漢方薬と排卵障害
視床下部性排卵障害や多嚢胞性卵巣症候群には、よく漢方薬を併用します。漢方薬のみで有効な卵胞の発育が得られることもあります。漢方薬である程度卵胞を発育させ、注射薬を使って成熟卵胞に育てる方法も刺激卵胞数を制限する上で有効な場合があります。その他、前述のように注射による排卵誘発を施行した場合には、全身倦怠感などの体調の不良を訴えられる方が多くいます。その際に漢方薬を併用し症状の軽減をはかることが出来ます。